ロイ・リキテンスタイン作品のオマージュ
漫画をアートにした功績で知られるロイ・リキテンスタインのオマージュ作品が3点展示されていました。アンディ・ウォーホルと並ぶポップアートの巨匠です。
リキテンスタインの作品の特徴は、漫画のカットのような太い輪郭線で囲まれた平面と、赤・青・黄の三原色によるベタ塗りです。これはピエト・モンドリアンというモダニズムの 抽象画家の影響を受けていると言われています。
《ヘア・リボンの少女》のオマージュ
ポプ子を《ヘア・リボンの少女》に見立てたオマージュ作品。ちゃんとセーラー服を着ています。
リキテンスタインの愛蔵作品だった《ヘア・リボンの少女》は現在、東京都現代美術館に収蔵されています。
当時のカラーコミックでは、少女の健康的な肌つやをピンクのドットによって表現していました。リキテンスタインは、そのドットを油彩の手書きで忠実に再現しています。
121.9cm×121.9cmのキャンバス上に、真円に近い真っ赤なドットを規則正しく並べられています。ドットの大小や密度で影を表現する緻密さは、職人技の領域です。
1995年、東京都現代美術館が《ヘア・リボンの少女》を購入した当時は、財産取得を審議する都議会にて「漫画に6億?」と野次が飛び、マスコミでもセンセーショナルに取り上げられたそうです。
蓋を開けてみると、2015年に《ヘア・リボンの少女》と全く同じサイズで同時期の別作品《ナース》が約120億円で落札されており、東京都が6億円で買った《ヘア・リボンの少女》は「お買い得」だったと言えます。
直近の事例では、アンディ・ウォーホルの《ブリロの箱》を購入して話題になった鳥取県立美術館を思い出しました。
【賛否両論】鳥取県が3億円で購入、アンディ・ウォーホル作品に波紋https://t.co/9J3CSmQfGv
米国のたわしの包装箱を模倣した1964年の作品「ブリロの箱」5点を購入。2025年にオープンする県立美術館の目玉として期待が寄せられる一方、疑問の声も相次ぎ、県は急きょ住民説明会を開催する事態に。 pic.twitter.com/vtg6Trns1r
— ライブドアニュース (@livedoornews) October 27, 2022
鳥取県では7,000万円以上の動産購入時には県議会の議決が必要となるところ、今回は作品を1点ずつ購入したため審議の対象外となったことや、3億円という金額、鳥取とゆかりが薄い美術品を購入した経緯に対して、疑問の声が上がりました。
2022年11月頃からネットニュースで取り上げられて以来広く注目され、鳥取県は急きょ住民説明会を開く事態となりました。2023年に入ってからも、住民向けに《ブリロの箱》の美術的価値を解説するイベントが開催されています。
《ヘア・リボンの少女》や《ブリロの箱》の見た目だけでなく、その背景にある美術史における価値、芸術を大衆化するポップアートの潮流を知れば、少なくとも購入金額が高すぎるという批判には当たらないはずです。
役所は、分かりやすい視覚的美しさと金額でしかアート作品を評価できない体質は、今も昔も変わらないんだなと思いました。(住民から集めた税金を公平かつ適切に使うことを使命する組織なので仕方ないのですが。)
《泣いている少女》のオマージュ
ピピ美を《泣いている少女》に見立てたオマージュ作品。
リキテンスタインの《泣いている少女》は、当時の漫画から引用したヒロインの姿にクローズアップし、少女の感情やストーリーを鑑賞者に想像させる作品です。
本作品は、流し目で涙をこぼすピピ美が、ティッシュ?を指でつまもうとしているシーンを描いています。よく見ると、ピピ美は青い地毛の上に金髪のウィッグを被っているようで、状況が謎です。
同じ「泣いている少女」の姿を描いても、リキテンスタインはシンプル明快で質が高い画面、純粋芸術を追求している一方、AC部は「違和感」をキャンパスいっぱいに表現している点が対照的でした。
《VICKI! I...I THOUGHT I HEARD YOUR VOICE!》のオマージュ
リキテンスタインによる原作は、画面手前の人物が金髪の女性に向かって「ヴィッキー、君の声が聞こえたと思ったよ」と呼びかける構図が、本作品では、画面奥にいるポプ子に向かってピピ美が「ああ、ごめん、ヘルシェイク矢野のことを考えてた」と答えています。
これは、話を聞いてもらえず怒ったポプ子に対して、ピピ美が「ああ、ごめん、ヘルシェイク矢野のことを考えてた」と返す『ポプテピピック』原作の謎シーンを再現したものです。
怒っているのかキョトンとしているのか、感情が読み取れないポプ子の表情が、ストーリーを掻き立てられます。
ちなみに、《VICKI! I...I THOUGHT I HEARD YOUR VOICE!》は、大阪心斎橋のアメリカ村に壁画が現存しています。
きちんと版権を買った本物で、《OSAKA VICKI!》と名付けられています。建物の形状に合わせてリキテンスタインが加筆し、1998年に完成しました。
私も初めて知ったので、次回の大阪訪問時はこの壁画も見に行こうと思いました!
ピエト・モンドリアン作《コンポジション》のオマージュ
リキテンスタインに影響を与えたオランダの抽象画家ピエト・モンドリアンの作品も取り上げられています。
物体の形や遠近感を極限まで抽象化し、シンプルな四角形(グリッド)と三原色のみで美しさを表現する《コンポジション》シリーズのオマージュです。赤・青・黄色のグリッドで、ポプ子とピピ美を抽象的に描いています。
2022年10月、ピエト・モンドリアンの作品が美術館で75年間逆さまに展示されていたと話題になりました。未完成品でサインがなかったために上下が分からなかったのですが、他作品の展示方法と比較して逆さまであることが判明しました。
本作品もポプ子とピピ美の髪色にあたる黄色と青が画面の下部にあるので、確かに逆さまな印象です。
目を凝らすとキャンバスの上部に小さく「B M 22」と書き込まれているため、逆さまに展示されていることがすぐに分かります。
一方で美しい物は、逆さで眺めても美しさは損なわれないし、その物体だときちんと認識できます。
例えば、逆さ富士を「富士山」だと認識できるし、正面の姿と変わらない美しさを感じ取れると思います。また、天橋立の飛龍観(股のぞき)のように、逆さに眺める方が美しいとされる景色もあります。
モンドリアンの抽象画が、75年間逆さまに展示されていても鑑賞者が美しさを感じ取ったならば、それはそれで正解な気がしました。