こんにちは!佳琳です。
中国の大人気SF小説『三体』シリーズの第一部を読了したので、作者・作品情報やあらすじをご紹介します。
本作は中国のみならず世界各国で翻訳・出版された話題作で、2015年、世界的に著名なSF・ファンタジー文学賞であるヒューゴー賞において、作者の劉慈欣がアジア人として初受賞しました。
今後の『三体』シリーズ関連情報についても紹介するので、三体ファンの方や、第一部の内容を振り返りたい方、これから本作を読まれる方に必見です!
作者と作品について
はじめに、『三体』シリーズの作者である劉慈欣(りゅう・じきん/リウ・ツーシン/Liú Cíxīn)氏と作品の概要について簡単にご紹介します。
劉慈欣氏は1963年生まれ、中国華北地方の山西省出身で、発電所のエンジニアとして働くかたわら、SFの執筆を始めました。そのため、中国では親しみを込めて彼を「刘电工/Liú diàngōng」(劉電気工)や「大刘/Dà Liú」(劉のアニキ)と呼びます。
代表作『三体』は、2006年から中国のSF雑誌『科幻世界』に連載開始して以来、人気が爆発。第二部(黒暗森林)が2008年5月、第三部(死神永生)が2010年11月に出版されると、中国国内の様々な文学作品賞を受賞しました。
『三体』三部作は本国で2100万部以上、英訳版が100万部以上売り上げ、世界的にも評価されています。FacebookのCEOマーク・ザッカーバーグ氏や、第44代アメリカ大統領のバラク・オバマ氏が本作を絶賛し、話題を呼びました。2015年には翻訳書として、またアジア人作家として初めてSF最大の賞であるヒューゴー賞を受賞。日本では2019年7月4日に早川書房から日本語版の第一部が出版されると、1週間で10回以上重版し10万部を売り上げる大ヒットとなりました。
一方で、2019年2月5日には、短編小説『流浪地球』(邦題:さまよえる地球)を原作とした映画が中国で公開され、興行収入が46憶人民元超える空前の大ヒットを記録します。
日本では2019年4月30日、Netflixにおいて『流転の地球』というタイトルで公開され、好評を博しています。劉慈欣は現在、最も注目すべき中国人作家の一人といえます。
『三体』の登場人物
あらすじに入る前に、本作の主な登場人物について紹介します。
中国語で書かれた作品であるため、登場人物の名前は基本的に漢字で表記されます。それぞれについて、漢字の日本語読みをひらがな、中国語による発音をカタカナとピンインでまとめました。なお、作中では漢字の氏名にルビで中国語のカタカナの発音が振られています。
葉一家
全編を通して登場しキーパーソンとなる女性・葉文潔と、その家族です。1966年から始まった文化大革命(文革)によって、葉一家は悲惨な運命をたどります。文革を含めた人類の営みに対する絶望が、その後の葉文潔を突き動かす行動原理となっていきます。
- 葉文潔(よう・ぶんけつ/イエ・ウェンジエ/Yè Wénjié):天体物理学者
- 葉哲泰(よう・てつたい/イエ・ジョータイ/Yè Zhétài):理論物理学者、精華大学の大学教授、葉文潔の父
他、母(紹琳)と妹1人(葉文雪)
紅岸基地
文化大革命時、葉文潔は中国共産党中央委員会直属の極秘基地「紅岸基地」に勤務しました。この基地で出会った人物と、そこで起きた出来事が物語を大きく動かします。
- 雷志成(らい・しせい/レイ・ジーチョン/Léi Zhìchéng):紅岸基地の政治委員
- 楊衛寧(よう・えいねい/ヤン・ウェイニン/Yáng wèiníng):紅岸基地の最高技術責任者、かつての葉哲泰の教え子、後に文潔と結婚
現在
文化大革命が終結した数十年後、現代の中国が物語の主な舞台となります。
- 汪淼(おう・びょう/ワン・ミャオ/Wāng Miǎo):ナノマテリアル開発者
- 史強(し・きょう/シー・チアン/Shǐ Qiáng):警察官、作戦司令センター所属、汪淼とともに事件の真相を追う
- 楊冬(よう・とう/ヤン・ドン/Yáng Dōng):宇宙論研究者、葉文潔と楊衛寧の娘
- 丁儀(ちょう・ぎ/ディン・イー/Dīng Yí):理論物理学者、楊冬の恋人
- 申玉菲(しん・ぎょくひ/シェン・ユーフェイ/Shēn Yùfēi):中国系日本人の物理学者、学術団体「科学フロンティア」の会員
- 魏成(ぎ・せい/ウェイ・チョン/Wèi Chéng):数学の天才にして引きこもり、申玉菲の夫
- 潘寒(はん・かん/ファン・ハン/Pān Hán):生物学者、申玉菲と魏成の知人、学術団体「科学フロンティア」の会員
- マイク・エヴァンズ:中国において植林・生態保護活動に取り組む活動家、多国籍石油企業CEOの御曹司
以上が主要な登場人物ですが、葉文潔(よう・ぶんけつ/イエ・ウェンジエ)、汪淼(おう・びょう/ワン・ミャオ)、史強(し・きょう/シー・チアン)の3人を押さえておけば、ストーリーの大枠を掴めます。
あらすじ
『三体』は時系列順に三部で構成されているので、部ごとに内容をまとめていきます。『三体』は重厚で壮大なストーリーで、今回まとめたあらすじも相当な文章量になっています。また、以下は完全なネタバレなので、まだ小説を読んでいない方はこの項目は読み飛ばしてください!
第一部 沈黙の春
第一部のタイトルとなっている『沈黙の春』は、いわずと知れたレイチェル・カーソンの代表作です。アメリカの生物学者であるカーソンは、1962年出版の『沈黙の春』においてDDT(殺虫剤・農薬)の無計画な使用を批判しました。カーソンによって、当時まだ顕在化していなかった化学物質による汚染問題が認知されるようになり、環境保護運動の源流となりました。『三体』第一部で描かれる文化大革命(文革)の大粛清は、中国社会を大混乱に陥れた悲劇といわれていますが、『沈黙の春』で指摘された生態系の破壊と同様、どちらも人類の営みがもたらした悪といえます。この「人間への絶望」が、ストーリーの根底に流れています。それでは、第一部の内容を見ていきましょう。
物語は文革の嵐が吹き荒れる1967年の北京から始まります。当時、文革の急先鋒に立った紅衛兵は、大学教授などの知識人を批判し自殺に追い込むほど激しい弾圧を繰り広げていました。物理学教授の葉哲泰も例外ではなく、かつての教え子や妻・紹琳などに暴行されて命を落とします。葉文潔は父・葉哲泰が惨殺される一部始終を目の当たりにし絶望に打ちひしがれます。
2年後、葉文潔は内モンゴル生産建設兵団に所属し、中国の北の辺境・大興安嶺で開墾、放牧、伐採などの労働に従事することになります。彼女も父と同様に物理学を専攻した知識分子であり、兵団においては煙たがられる存在でした。ある日、兵団機関紙の記者が大興安嶺を訪れます。兵団による乱開発に疑問を感じていた記者は葉文潔と交流し、こっそり『沈黙の春』の英語原稿を彼女に渡しました。記者は内モンゴル生産建設兵団の大開墾が招いた生態系破壊の告発を画策しており、葉文潔も同調しました。兵団の慣れない肉体労働で疲労した記者の代わりに、葉文潔は中央政府への手紙を清書しました。ところが記者に裏切られ、葉文潔は『沈黙の春』を盗み読み、政府を批判する手紙を書いたと兵団幹部に糾弾されます。極寒の拘置所の中で審判を待つ葉文潔は、発熱で意識を失います。
葉文潔が目を覚ますと、紅岸基地所属の雷志成と楊衛寧とともにヘリコプターに乗っていました。紅岸基地は、内モンゴル生産建設兵団において「レーダー峰」と呼ばれ、知られていました。山頂に巨大パラボラアンテナを備えた軍事基地で、誰も近づけないよう厳戒態勢が敷かれていました。紅岸基地到着後、雷志成と楊衛寧は葉文潔に対して、これまで培った専門知識を生かして基地で業績を上げることで、反革命罪を償うよう提案されます。それは一生基地から出られないことを意味していましたが、外界から隔絶されたこの山頂に心の平安を求めた葉文潔は承諾します。
第二部 三体
第二部では、文革から数十年経過した現代の中国に舞台が移ります。作中に登場するVRゲーム「三体」がキーポイントになり、ゲームを進めるにつれて現実世界で次々に事件が展開していきます。それでは、第二部の内容を見ていきましょう。
ナノマテリアル開発者の汪淼のもとに作戦指令センター所属の警察官・史強が訪問し、学者や専門家が集まる重要会議への参加を通達しました。その会議で汪淼は、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられます。自殺者リストには、以前、高エネルギー粒子加速器建設プロジェクトで出会った美しい物理学者・楊冬の名前もあり、汪淼はショックを受けます。自殺者のほとんどが学術団体「科学フロンティア」と関連があるため、作戦指令センターは内情を探るべく汪淼に同団体の会員になるよう依頼し、彼は渋々承諾しました。
その夜、汪淼は楊冬の恋人である物理学者・丁儀を訪問しました。楊冬は「物理学は存在しない」という遺書を残しており、丁儀はその真意について説き始めます。時間や場所(空間)が変わっても物理法則は変化しないのが科学の大原則ですが、近頃、高エネルギー粒子加速器による実験において、実施条件を揃えても毎回結果が異なる結果が発生していることが丁儀の口から伝えられます。宇宙のどの場所においても通用する物理法則が存在しない、つまり「物理学は存在しない」ことを意味します。汪淼は丁儀から楊冬の母親の住所を聞き出し、帰宅しました。
翌日、汪淼は気晴らしに趣味の写真撮影に出かけました。すると撮影した写真のすべてに、小さな数字の羅列が写りこんでいることに気づきます。数字はカウントダウンで、写真を撮るたびに刻一刻と進行していきます。科学的に説明がつかない怪現象に恐怖した汪淼は、「科学フロンティア」会員である申玉菲を訪問します。申玉菲は自宅でVR全身スーツを着用してゲームをプレイしていました。汪淼が謎のカウントダウン現象について訊ねると、申玉菲は彼が主導するナノマテリアル・プロジェクトの中止を勧告する以外、何も話しませんでした。釈然とせず汪淼が帰宅しようとすると、「科学フロンティア」会員で生物学者の潘寒と出くわし、申玉菲と言い争う様子を目撃します。
その翌日、汪淼が目を覚ますと自分の視界にカウントダウンの数字が表れていることに気づきます。汪淼はナノテクノロジー研究センターに出勤し、偶然発生したトラブルのためにシステムを停止させたところ、視界のカウントダウンは消えました。困惑した汪淼は申玉菲に連絡すると、ナノマテリアル研究の中止を勧める以外はだんまりでした。さらに申玉菲は、3日後、宇宙背景放射を操作して全宇宙を点滅させると予告します。
汪淼は、申玉菲がプレイしていたVRゲームを思い出し、事態を探る手がかりを掴むためプレイしてみます。「三体」というタイトルのゲームで、プレイヤーは太陽の運行が不規則な世界の中でプレイします。ゲーム内には、太陽の運行が不規則な「乱紀」と、規則的で安定した「恒紀」が存在します。過酷な乱紀の気候条件に耐えるため、人類は乾燥した一枚皮のような脱水体に変化します。恒紀になって初めて人類は再水化し、建設と生産に着手し文明が発展します。ゲーム内で太陽の運行の規則性を発見して人類文明を存続させることクリア条件だと汪淼は理解しますが、長い極寒の時代によって文明が崩壊し、ゲームオーバーとなります。
「三体」プレイ後、汪淼は楊冬の母親である葉文潔を訪問し、宇宙背景放射を観測できる施設を紹介してもらいました。当日、汪淼は観測施設の職員から、葉文潔の身の上や紅岸基地での経歴を耳にします。約束の時間になると申玉菲の予告どおり、観測機のモニターが大きなゆらぎを計測し、モールス信号の形でカウントダウンを始めました。汪淼は驚愕のあまり観測施設を飛び出し路上にへたりこんだところに、史強が現れました。
史強は汪淼を元気づけるため、酒を酌み交わします。汪淼はここ数日間に起きた不可思議な出来事を伝え、史強も現時点で把握している情報を共有しました。最近、科学者の自殺だけではなく、理系大学関係者や科学技術団体に対する犯罪の増加、環境保護団体による抗議活動の過激化、生物学者・潘寒が提唱する自然回帰を目指した実験社会の流行など、科学技術発展を阻む事件が相次いでおり、史強は科学研究を壊滅させようと企む黒幕がいると睨みます。同時に史強は、敵が一番恐れているのは科学者や基礎科学であり科学研究の継続こそが敵への最大の反撃になると、汪淼を勇気づけます。
史強と別れた後、汪淼は再び「三体」をプレイしました。前回プレイ時に比べて、ゲーム世界では長い時間が経過していましたが、文明はあまり発達していませんでした。今回も太陽の運行規則を予測できず、ゲームオーバーとなります。
翌日、汪淼が葉文潔を訪問すると、彼女は紅岸基地での経験を語り出しました。当初、紅岸基地の目的は大気圏外の敵宇宙船の監視・攻撃とされていましたが、優秀な葉文潔が基地内で欠かせない人材になると、最高技術責任者の楊衛寧から真の目的を聞かされます。なんと紅岸基地は、巨大なパラボラアンテナから大気圏外に電波を送り、地球外文明・生命体を探索するとことが本当の目的だったのです。しかし紅岸プロジェクトは成果を上げられず、年を経るごとに機密レベルが下がり、規模が縮小していきます。葉文潔は基地入隊4年目に楊衛寧と家庭を持ち子どもをもうけましたが、出産直前に楊衛寧と雷志成は不慮の事故で死亡します。80年代初めまで娘の楊冬とともにレーダー峰に残りますが、基地の解体後は北京の大学に移籍し定年まで教鞭をとりました。葉文潔は、孤独で偉大なプロジェクトに翻弄された数奇な人生を送りました。
帰宅後、汪淼は心を静めるために「三体」をプレイしました。ここで汪淼は、ゲーム内の世界には太陽が3つあるとする三体説を唱えます。太陽の運行に法則がないように見えるのは3つの太陽があるためで、1つの太陽をめぐって安定的に運行しているのが恒紀で、他の太陽が一定距離内に近づいて惑星が3つの太陽の引力圏内を不安定にさまよっているのが乱紀だと説明します。今回の文明は三太陽の出現により滅びゲームオーバーとなりますが、汪淼が宇宙の基本構造を示すことに成功したため、ゲーム内の三体文明は飛躍しレベル2に到達します。
ゲーム終了後、汪淼は史強に呼び出されて深夜の公安分局(警察署)に出頭し、そこで申玉菲の夫・魏成と対面します。魏成は何者かに命を狙われていると訴え、その理由として自らの生い立ちを話し始めます。魏成は数学に天賦の才がありましたが、生来のものぐさな性格が災いして才能を生かせず、成人後のキャリアは悲惨なものでした。周囲に勧められるがまま山寺に入ると、寺の僧から「空」という概念を与えられ「三体問題」の探究にたどりつきます。
三体問題とは、相互作用する3つの物体の運動を研究する難問です。
万有引力の法則にしたがって運動する3個の質点の運動を研究する問題。一般には2物体の場合のような厳密な解は得られず,3物体が正三角形の頂点の位置にあるときや,一直線上にあるとき等特殊な場合についてだけ解かれている。また三体問題の研究は微分方程式,変分学,位相幾何学などの発展に影響を与えた。
引用:コトバンク(三体問題)
三体問題には答えがないとされていますが、三体の運動をすべて予測できる数学モデルをつくるため、魏成は研究にのめりこみます。
その後、三体問題に強い関心を持つ申玉菲と山寺で偶然出会います。申玉菲は魏成の研究を高く評価し、研究に最適な環境の提供を申し出ます。山寺を離れた魏成は申玉菲と結婚し、三体問題に没頭する現在の生活に至ります。ところが昨日、三体問題の研究をやめなければ殺すという匿名の電話を受けて、事態が急変します。その警告の電話を受けた後、申玉菲は魏成に対して銃を突きつけて三体研究をやめたら殺すと脅したと言います。
そこで史強は、銃器不法所持の名目で家宅捜索することを決定し、汪淼たちとともに申玉菲の家に急行します。
現場に到着すると、申玉菲が銃殺されているのを発見します。申玉菲の遺体を見ても魏成は顔色一つ変えず、昨日、自宅で潘寒と申玉菲が口論する姿を見かけたと証言します。同時に、汪淼は魏成から三体問題を解く進化的アルゴリズムのデータを受け取ります。
汪淼は再び「三体」をプレイします。今回は、3000万の人力を動員して隊列を組み、コンピューターのマザーボードを作成しました。人列コンピューターで太陽の運行の予測に挑みますが計算に誤りがあり、結局、今回の文明も滅亡しました。プレイ終了後、ゲームの管理者から連絡が届き、汪淼は「三体」プレイヤーのオフ会に招待されます。
翌晩、オフ会が開催され、汪淼は他の「三体」プレイヤー7名と幹事の潘寒に対面します。潘寒は参加者に対して、三体世界(トライソラリス)は実在し、「三体」のゲームは人類の歴史を借りて三体世界の発展をシミュレートしたものだと告白します。同時に潘寒は、このゲームは三体世界の希求という理想を共有する仲間のリクルートが目的であると告げ、三体文明に対して否定的な意見を持つオフ会参加者のプレイIDを抹消してしまいました。
汪淼は潘寒との受け答えで機転を利かせたため、プレイIDを抹消されずに済みました。オフ会終了後「三体」にログインすると、ゲーム内の世界は様変わりしており、文明は現代と同じ水準に達していました。今回、汪淼は魏成の研究成果である数学モデルを持ち込みますが、ゲーム内の学術レベルはその先に到達しており、三体問題は解がないことで既に決着していました。三体世界では太陽の運行規則は予測不可能で、3つの太陽に飲み込まれ滅亡することが運命づけられており、宇宙の他の星系に新しい故郷を見つけるほか三体人が生き残る術ありません。今回の文明も滅亡しゲームオーバーになります。
汪淼が時間をあけて再度ログインすると、緊急事態のためサーバをシャットダウンしゲーム最終ステージへ直接ジャンプするとのメッセージが表示されます。三体文明は星間航行能力を持つまで発展しており、三体人が安住の地を求めて4光年先の星系を目指して遠征するところでゲームは終了します。汪淼がゲームからログアウトすると、地球三体協会の集会に参加するようメッセージが表示されました。
第三部 人類の落日
第二部で汪淼がクリアしたVRゲーム「三体」の真相や制作者の目的が明るみになり、これまでの謎明かしとともに怒涛の勢いでストーリーが展開します。手に汗を握る急展開の連続で、本を読み進める手が止まりません。それでは、第三部の内容を見ていきましょう。
汪淼が地球三体協会の集会に参加すると300人以上集まっており、中央の舞台に立つ潘寒が周囲から詰問されていました。潘寒と参加者の問答から、潘寒は地球三体協会環境局に所属し、地球人類全体に近代産業と科学に対する嫌悪感を植え付ける活動をしていたことが分かります。さらに潘寒は、申玉菲を「降臨派」の裏切り者として殺害したと供述します。地球三体協会の総帥が「降臨派」と「救済派」のどちらを支持しているかをめぐって集会参加者たちが議論していると、総帥が姿を見せます。「人類の専制を打倒せよ」「世界は三体のもの」というスローガンとともに現れた総帥は葉文潔であり、潘寒を規則違反の裏切者として糾弾し、その場で殺害します。あっけにとられる汪淼に対して、葉文潔は三体文明とのファーストコンタクトについて語り出します。
紅岸基地に勤務していた頃、太陽の数学モデル構築を研究していた葉文潔は、太陽が電波増幅装置になると気付きます。彼女は密かに基地の設備を使い、太陽に向かって地球外生命体へのメッセージを発信します。何も応答がありませんでしたが、9年後のある夜勤の日に返答のメッセージを受信しました。ある平和主義者からの警告と銘打っており、「宇宙から受信したメッセージに応答すると、その送信源(太陽系の位置座標)を特定されて地球文明が侵略されるため、決して応答してはいけない」という内容でした。葉文潔は、このメッセージが 地球と最も近い恒星系の惑星に生きている異星人(三体星人)から発信されたものだと突き止め、滅亡と復活を繰り返す三体世界の存在や他の恒星系への移住計画を知ります。地球において繰り広げられる人類の狂気、理性の欠如に心底絶望していた葉文潔は、警告を無視して地球へ介入を求めるメッセージを発信しました。
地球三体協会は、現代の地球人類による文明を破壊し三体人の入植をサポートするために活動しており、葉文潔が精神的なリーダーとなっていました。数々の超常現象で汪淼を脅迫したのは、彼が研究しているナノマテリアル素材は、ゆくゆく大規模な宇宙開発や異星人による侵略から地球を防衛するシステム開発を可能とするので、地球人類の技術が進歩する前にその芽を摘み取るためでした。
葉文潔と汪淼が話し込んでいる間に史強は部隊を手配し、地球三体協会の包囲に成功します。史強が投降を呼びかけると、協会の会員たちは集会場にあったオブジェから核弾頭を持ち出して抵抗します。やむなく史強は核弾頭を狙撃することで核爆発という最悪の事態を防ぎましたが、周囲に放射性物質が噴出し、史は被爆します。
地球三体協会は反乱分子として逮捕されました。葉文潔も警察から尋問され、地球三体協会設立までの経緯について証言します。紅岸基地において三体星人のメッセージに気付いたのは葉文潔だけではありませんでした。政治委員の雷志成もメッセージを受信しましたが、既に葉文潔が応答済みとまでは知りませんでした。当時、葉文潔は妊娠しており、雷志成は夫の楊衛寧と生まれてくる子どもを慮って穏便に済ませようとしましたが、葉文潔は事故死と見せかけて雷志成と楊衛寧を殺害します。
出産を控えた葉文潔は、一時的に紅岸基地を離れることを許されます。ふもとの村で楊冬を出産し、しばらくそこに滞在しました。子育てを通して村の女性たちと打ち解けた交流をしたり、子どもたちに勉強を教えたり、心温まる日々を過ごします。基地に戻って2年後、葉文潔と父・葉哲泰の政治的な名誉回復がされ、彼女は出身大学の教壇に立てることになりました。紅岸基地を離れると、文革が収束し社会全体で復興に向かってることを体感します。知識分子と再婚して大学の学長にのぼりつめた母親と再会しますが、父の死をめぐるわだかまりは解消されず2度と会うことはありませんでした。また、葉文潔は父を殺した紅衛兵を見つけ出して対面しますが、彼らは社会への恨み言を吐くばかりで懺悔や謝罪の言葉はなく、人類への絶望と宇宙文明への期待を深めました。
その後、葉文潔は大学の仕事の関係で訪問した僻地で、ツバメを守るために荒れ地に植樹する外国人・エヴァンズに出会います。彼はすべての生命は平等という「種の共産主義」を唱え、葉文潔に強い印象を残しました。3年後、葉文潔が同じ場所を訪れると、エヴァンズが植林した森に殺到して我先に木を伐採する村人の姿を目の当たりにします。人以外の命を軽んじる人類に絶望したエヴァンズに対して、葉文潔は紅岸基地での出来事と三体世界の存在を教えました。葉文潔の話に感化されたエヴァンズは、三体世界について検証すると言って姿を消します。
3年後、葉文潔はヨーロッパでエヴァンズと再会します。多国籍石油企業の御曹司であるエヴァンズは、親から譲り受けた遺産を使って巨船「審判の日(ジャッジメントデイ)」を手に入れ、三体世界との交信を行っていました。彼も三体人からのメッセージの受信に成功し、三体艦隊は450年後に太陽系に到着すると葉文潔に伝えます。三体文明によって地球文明と人類の矯正を果たすため、葉文潔は地球三体運動の総司令官に就任します。
このようにして葉文潔が設立した地球三体協会は、中国のみならず英米など各国も警戒する一大勢力にまで拡大しました。しかし、内部組織は決して一枚岩ではなく、「降臨派」と「救済派」の二つに分かれ対立していると葉文潔は言います。「降臨派」は人類文明に絶望しエヴァンズの「種の共産主義」を推進する勢力で、「救済派」は三体人を神格化し主(三体世界)による救済を待ち望む一派で、三体宗教ともいえる存在です。この二大勢力の他に、三体人による地球侵略後も自分たちの子孫である人類の生存を願う「生存派」という第三の勢力も現れ始めました。地球三体協会のリーダーである葉文潔がどの派閥に属するかで、組織は揺れていました。
葉文潔への取調べによって、来たるべき三体文明からの侵略により人類滅亡の危機に瀕していることが明るみになりました。人類共通の敵に立ち向かうため、全世界が団結して多国籍軍を組織しました。地球三体協会の残党が巨船「審判の日」を拠点として活動しているため、その船を拿捕し船内に保管されているデータを回収することとなりました。汪淼は多国籍軍の協力を受けて、パナマ運河の両岸にナノマテリアルのワイヤーを張り船体ごと切り刻む「古筝作戦」を実行し、見事成功します。船内に保管された三体星人との交信データを分析すると、三体世界の恐るべき企みが明らかになります。
常に滅亡の危機に脅かされている三体世界は、帝国主義的な価値観に支配された過酷な社会でした。安住の地を求めて宇宙を旅する三体星人は、葉文潔が紅岸基地から発したメッセージによって地球の位置を特定しました。彼らにとって地球の環境は魅力的であると同時に、地球人の好戦的な性格や科学技術の発展スピードは恐怖の対象でした。三体星人が地球に到着する450年後、地球の征服を有利に進めるために、地球人類に対して三体文明への憧れとともに科学技術への嫌悪感を植え付けることを始めました。その手段の1つが智子(ソフォン)を使った地球への干渉でした。智子とは智恵のある粒子のことで、複数の智子があれば智子同士で遠隔作用を及ぼすことができます。三体世界の科学者はこれを利用して、半分の智子を三体世界に残してコントロール用とし、もう半分の智子を地球に送り込みました。高エネルギー加速器の研究結果を乱して地球人の科学研究を妨害したり、汪淼の視界にカウントダウンを映し出したのも智子による干渉でした。同時に、三体世界をあがめる地球三体協会を利用して全地球の科学者暗殺を進め、地球人類の科学の発展にくびきをかけました。
三体文明による智子プロジェクトは、圧倒的な科学技術力の差を見せつけるとともに、地球文明は智子を通じて常に三体世界の監視下にあることを意味します。愕然とする汪淼たちを嘲笑うかのように、三体星人は智子を使って「お前らは虫けらだ」というメッセージを送りつけてきました。地球人類は団結して、来たるべき三体世界との戦いに備えなくてはなりません。
数年後、蝗害を受ける北京を見つめる汪淼と史強は、人類が有史以来太刀打ちできない虫けらも存在していると思い至り、改めて三体世界への対抗心を燃やしました。一方、紅岸基地の跡地を訪れた葉文潔が夕日を眺めながら人類の落日を感じるシーンで、物語は幕を下ろします。
今後の展開
圧倒的な想像力で描き上げられた『三体』は映像化が困難と言われており、実写ドラマ・映画化の話が何度も持ち上がっては立ち消えになってきました。2019年に入ってから、中国国内で漫画・アニメーションの展開が発表され、映像化に向けて大きく前進しました。今後の展開について紹介します。
中国による漫画・アニメーション化
引用:腾讯动漫
中国の騰訊(テンセント)が2019年11月から漫画版『三体』を公開し、202年10月現在も連載中です。読者によるレビューは10点満点中9.4点と高く、好評を博しています。中国語で書かれていますが全て無料で読めるので、中国語ができる方や中国語学習者にオススメです。
また2019年11月17日、中国の動画配信サイトbilibili(ビリビリ)において、『三体』のアニメーション化が発表されました。
bilibiliが制作した予告動画が、YouTubeにおいて日本語訳付きで公開されています。
2022年現在、こちらのページで公開されておりますが、残念ながら日本のインターネット環境では、著作権の関係で閲覧できないようです…(VPNで中国を経由すれば見られるかもしれません)
日本における続編の出版
2020年6月18日、『三体』シリーズ第二部「黒暗森林」が上下巻の2冊展開で出版されました。(私も読了済みです)
第一部は、地球は三体文明の智子(ソフォン)によって常に監視、干渉されていると発覚する絶望的なシーンで終りました。第二部「黒暗森林」は、人類共通の敵「三体艦隊」に対抗するため、地球全体が団結し「面壁計画(ウォールフェイサー・プロジェクト)」を発動します。
智子(ソフォン)といえども人間の思考は読み取れないことを逆手にとり、四人の面壁者(ウォールフェイサー)を選出し、彼らの頭の中だけで地球を救う手立てを考えさせるのが「面壁計画」です。第二部は面壁者の一人、羅輯(ルオ・ジー)が中心となってストーリーが展開します。
葉文潔から宇宙社会学の公理「黒暗森林」を託されたがために三体文明から命を狙われてきた羅輯は、面壁者となって様々な経験や思考を積む中で、やがて「黒暗森林」を理解し、地球文明の絶望的な状況を打破します。
上記が第二部の概要ですが、当ブログにもあらすじをまとめたいと思っています…!
2021年5月25日には、『三体』シリーズ第三部「死神永生」が上下巻で出版され、遂に完結しました!
私もまだ読み終わっていないので、早く結末を知りたい&またブログにあらすじをまとめたいです。
『三体」人気を受けて、本編以外にも派生作品がいくつかあります。
2022年7月6日、中国新世代のSF作家・宝樹(バオ・シュー)氏による公式スピンオフ『三体X 観想之宙【かんそうのそら】』が出版されています。
まだ読んでいないのですが「『三体』で提示された謎のすべてが明かされる」とのキャッチコピーにそそられまくります!三部作読み終わったら読みたい…
また、2022年12月21日には、『三体』シリーズの前日譚となる『三体0【ゼロ】球状閃電』が発売されました!こちらは本家・劉慈欣氏による作品です。
積読本がどんどん増えていきます…!
Netflixによる映像化
2020年9月1日、Netflixは『三体』三部作の映像化を発表しました。脚本と製作総指揮は、『ゲーム・オブ・スローンズ』のショーランナーであるデヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス や、『ザ・テラー:不名誉』のショーランナーであるアレクサンダー・ウー が担当します。
原作者の劉慈欣氏もコンサルティングプロデューサーとして参加するため、原作の精神を活かした魅力的な作品になると期待されています。
2022年12月現在、まだNetflixにおいて『三体』は公開されていないので、続報がありましたら追記します!
終わりに
中国の大人気SF小説『三体』のあらすじを中心に情報をまとめました。中国本土では2006年〜2010年に出版された本作は、完結してから既に10年以上経っていますが、人気は衰えません。映像化は現在進行中&日本語版でもスピンオフ小説が続々出版されているので、今後の展開に目を離せません!